「もう一度生まれ変わりたい...そしてもう一度大好きなスキーがしたい...」そう願っていた主人公は、ある日アフリカの大地で「ダチョウ」として生まれ変わってしまう。
「まいったな〜暑いのが嫌いなんだよ! 俺はスキーがしたいんだ!・・・」
こんな奇抜なストーリーで始まった「JR東日本」のスキーキャンペーンCMの第1段「REBORN SKI HERO篇」は、2003年の12月に放映され大きな話題を呼んだ。皆さんの記憶の中にもきっと印象深く残っているのではないだろうか?
一羽のダチョウが繰り広げる、スピード感溢れるスキーの滑降シーンのリアルさとインパクト、そしてリフトに乗ったり、コテージで人間たちと一緒に食事をするコミカルなシーンは、スキーファンならずとも、多くの視聴者の心を釘付けにしたようで、「CMデータバンク」の月間好感度調査では「4,700作品中4位」の人気を誇っている。
その「ダチョウ」が、昨年末(2004年12月)に、仲間たちを引き連れてゲレンデに帰ってきた。
スキーキャンペーン第2弾となる「JAPAN SNOW PROJECT/TRIPLE JUMP篇」では、更にアグレッシブなダチョウが3羽に増え、またもや世間を大きく賑わしている。
多くの視聴者の心に届いたこのCMは、その奇抜な発想やストーリー性だけではなく、その技術面でもずいぶん注目を集めており、インターネット上では、実にさまざまなコメントや推測めいた解説が飛び交っているようだ。
また、広告主である「JR東日本」にも、「あれは本物のダチョウ?」「どうやって撮影したの?」といったような質問が数多く寄せられているという。
現在「JR東日本」のオフィシャルWebサイト上では、このCMに関する簡単なインフォメーションが掲載されており、その解説によると、「スキー場ではダチョウのかぶりものをした人間がモデルで滑降し、日本のスタジオでダチョウの表情などを別撮りして、CG(コンピュータグラフィックス)で合成しました」とあるが、映像にかかわる方々の探求心は、それだけでは収まらないようで、私たち「dof」にも、是非取材してほしいというリクエストが多く寄せられた。
そこで今回は、そんな皆さんからのリクエストに答え、この「JAPAN SNOW PROJECT/TRIPLE JUMP篇」のメイキング的な背景をご紹介したいと思う。
このCMの特撮や表現手法などは、初回作放映からしばらくはクローズにされていたものの、2作目ということと、反響の大きさから、少しずつ明かされており、既にいくつかの広告業界誌やTV番組などで、スポット的に語られはじめているが、dofでは、表面的な特撮の手法だけではなく、「人の心を動かす映像というものがどのようなアプローチでつくられているのか」といったディテールを、更に深く探求してみたいと思う。 
PREVIEW:まずは見てみよう
「JAPAN SNOW PROJECT/TRIPLE JUMP篇」のCM放映は残念ながら3月下旬ぐらいで、スキーシーズンとともに終わってしまう。もしかすると、まだ一度も見ていないという方もおられるかもしれないが、そんな方は、現在「JR東日本」のWebサイトで、同CMコンテンツがストリーミング公開されているので、それを参照されるといいだろう。
残念ながら、オンエアーとは違い、サイズも小さく細かなディテールを見てとることはできないので、そのリアリティやダイナミックなイメージは伝わりにくいとは思うが、まずはその映像を見てから記事を読んで頂いたほうが、イメージが描けるのではないかと思う。
ただし、公開は3月31日までという事なのでご留意頂きたい。
下のリンクから、JR東日本の「えきねっと」のページにアクセス頂き、ページ左上の「旅どきnet」の中の「テレビCMギャラリー」というページで見る事ができる。

この奇抜な企画を生み出した仕掛け人
前作の「REBORN SKI HERO篇」そして今回の「TRIPLE JUMP篇」の2作の企画を手がけたのは、たった4人にして広告業界を震撼している「TUGBOAT:タグボート」というクリエイティブ・エージェンシーだ。CM業界の方なら一度くらいは名前を聞いたことがあるのではないだろうか。電通から独立してからの彼たちの積極的なアプローチはいろいろなシーンで見聞きすることができる。
彼たちが手がけてきた作品を上げていたらきりがないが、興味のある方は彼たちの3年の足跡(作品)が本として出版されているので、是非読んでみるといいだろう。広告市場で頑張るクリエイターなら、刺激的な一冊になることだろう。
今回のダチョウシリーズの企画を担当したのは、そんな4人の中の一人である、プランナーの多田 琢(ただたく)氏だ。
彼は、アコムの「むじんくん」や、富士通の「FMV」や、サントリーの「DAKARA」など、多数の印象深いCMを手がけているクリエイターで、1997年には「クリエイター・オブ・ジ・イヤー」を史上最年少で受賞し、1999年には、トップクリエイター達が競う「TCC(Tokyo Copywriters Club)最高賞」、「ACC(All Japan Radio & Television Commercial Confederation)金賞」、同じく「ACC技術賞」と、広告業界の最高賞を独占するという経験の持ち主でもある(その他にも受賞歴多数)。
また、彼の活躍の場はCMのフィールドだけにとどまらず、2004年9月28日より公開された浅野忠信主演の映画『SURVIVE STYLE 5+』では、初めての企画・原案・脚本を手がけた実績をもっている。実に多彩な才能を発揮する41才のクリエイターである。
まずは、そんな多田氏に、今回のダチョウシリーズが誕生した背景を聞いてみた。
多田氏によると、「JR東日本」と「TUGBOAT」の関係は、今回のスキーキャンペーンが初めてではなく、1999年に公開された「JR東日本」のキャンペーン「SNOW TRAiNG」や、2004年に公開された「JR東日本×JR西日本」のキャンペーン「北陸のフランス人」なども「TUGBOAT」が手がけているという。
思い返せば、「SNOW TRAiNG」の時のストーリー構成もショートフィルム仕立ての実にユニークなものだった...。
車でスキーに出かけたところ、渋滞にはまってしまい、トイレを我慢し続けていたら膀胱炎になって病院に担ぎ込まれてしまったり、雪深い峠に行く手を阻まれ、路肩に車を止めてチェーンを巻いていると、車が崖から滑り落ちて爆発炎上してしまい、「やっぱ、新幹線でしょう!」というコミカルで奇抜な落ちで、見るものを楽しませてくれた。
先に紹介した映画『SURVIVE STYLE 5+』の脚本といい、今回のダチョウシリーズの発想といい、彼の頭の中には常に奇抜で独創的な発想が溢れているようだ。
多田氏は、スキーキャンペーンの発想に関して、このように語る。
「スキー客は年々下降気味で、CMはそれに対するカンフル剤的なものが求められていました。つまりスキーが再び新鮮に見えることが必要であったのです。人間がスキーをしているシーンはどんな華麗な映像であっても驚きはしません。しかし、絶対にスキーなどしないもの、例えば動物がスキーをしていたら衝撃的映像になり、スキー自体も新鮮に見えるはずだという考えで企画しました」と多田氏。
特に、今回のCMで意表をつかれたのは「ダチョウ」の存在だが、なぜ多田氏はダチョウをキャラクターに起用したのだろうか?
「スキーの特徴である足の曲げ伸ばしを表現できる長い2本足の動物はダチョウだけだからです」(多田氏)。
その答えは、実にあっさりとしたものだったが、そう聞かされると「なるほどね〜」と言うしかない。
もちろん、そこには、その躍動感やコミカルなイメージなどの総体的なイメージングが一気に頭の中で組み立てられたのではないかと思うが、実に明解な考察である。
しかし、いかに斬新で面白い企画をたてても、それが広告主に受け入れられなければ成立しないのが広告ビジネスである。そう考えると、この奇抜なアイディアを具現化し、JR東日本を納得させた企画力や提案力といったあたりにも卓越したものがあるのだろう。
また、視点を替えれば、広告主となるJR東日本側にも、奇抜な企画を受け入れるだけの柔軟な土壌があるということになるのではないだろうか。

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